0217【愚者の停戦】

 しかし、イリスフィアは突然踵を返し四人から離れていく。まるで玩具に飽きたかのように完全に興味を無くして去っていく姿に安堵するスバル。とりあえず命は繋いだと言う小さな勝利を噛みしめる。しかし、思考がヤンキーのZちゃんには到底受け入れられる訳がない仕打ちであった。これまで命のやり取りをしていた相手に対し、止めも刺さずに放置されると言う無礼をいきなり突きつけられた事で、彼女の感情は一気に沸点へ。

 動かないはずの体が軽やかに舞う。この一瞬、一切の苦痛はZちゃんの意識から忘れられた。しかし、例え万全の状態であってもまともな戦いにすらならなかったザマでは一太刀浴びせられる筈もなく、背後から跳びかかるZちゃんに触手が迎撃の為真正面から伸び、人影に突き刺さる。だが、その一撃は咄嗟に前に出たスバルが軸をずらした為に腹部を掠めた程度で済む。しかし、うねる触手に打ち上げられ二人は数メートルの高さを頭から墜ちる。落下の衝撃さえ深刻なダメージになってしまう今の二人。最早精魂尽き果て、寝返りすら打てないどころかZちゃんに至っては瞳孔が開いている。スバルは遂に一瞥もさせられぬまま立ち去ってゆくイリスフィアの後姿に弱々しく手を向けた後、事切れた。

 イリスフィアは奥に通じる道をただただ歩いている。その顔は、獲物を探す捕食者のそれである。しかし、闇雲に探しているのではなくこの先に獲物がいる事を確信している余裕すら感じさせる笑みを浮かべながら。

 一方、Zちゃんの異常に気がついたグレちゃんは這いずって傍まで行くと、最後の力で落雷を呼び寄せる。それは本来の1割にも満たない出力のサンダーブレークであったが、最近あるルートで入手した医療大学で採用されている治療のシュミレーターをゲームとして嗜んでいた彼女にとっては適正な出力であった。掌に電気を集め、彼女の胸にぶつける。それは正常な鼓動を止めていたZちゃんの心臓に作用、結果として彼女の意識を取り戻させる快挙を成し遂げた。それと引き換えにグレちゃんの意識は途絶えた。




  • 最終更新:2018-11-08 18:42:47

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