0216【届かない拳】

 活き餌に痛手を被るが如き無様が、イリスフィアから薄ら笑いと慢心を消し去る。鬼のような形相で燕に冷気と呼ぶ事すら生温い極寒の風を浴びせ、氷漬けどころか完全凍結して砕き殺そうと目論むイリスフィア。だが、それを指を咥えて黙って見ている『三人』では無い。

 まず動いたのはグレちゃんだった。ブレストバーンで冷気の風から燕を守ろうと恐怖を振り払ってイリスフィアの前に立つ。鼻水も凍る冷気に晒され埋められない実力差が、小さな勇気を押し潰そうとする時、グレちゃんが声を張り上げZちゃんに助けを乞う。これまでの根暗で自分本意なイメージを払拭するその勇姿に応えなくては女じゃないとZちゃん、グレちゃんの横に並び立ちいつも以上に気合い込めて胸の放熱板へエネルギーをチャージ、二人の魔神の必殺攻撃が冷気を押し返す。

「ダブルバーニングファイヤー!!」

 二つの輻射熱が合わさり、鉄をも融かす灼熱の風が吹き荒れる。伝播した熱により燕の全身に下りた霜の拘束は溶け、その隙にスバルが駆け付け身柄の確保に成功。しかし、熱と冷気が長時間ぶつかり続けた事で衝突点に生まれたエネルギーが限界を超えて炸裂。酸素も取り込み大爆発を起こす。

 衝撃で設備は瓦礫となって砕け散り、燃料に引火して火の海と化したちか研究所はさながら地獄絵図の様相。未だ戻らない倶利伽羅が気になり、後を追うべく奥に向かおうとした四人をイリスフィアの触手が回り込み、先端の目玉が四人を一度に見据えるように行く手を阻む。最悪な事に、今の爆発でさえ目に見えるダメージを受けていない。自棄気味に放ったZちゃんのロケットパンチを見て、未だ諦めない四人に苛立ちの咆哮を上げる。放たれるプレッシャーすら、四人はもうまともに受けられない。

 触手の尖端から覗く眼がビカッと光り、熱をまとった衝撃波四人を襲う。ロケットパンチは押し返されるどころか至近距離で熱を受けた事で融解。動けない燕を守ろうと展開した魔力防壁の発動でスバルの魔力も遂に尽きた。Zちゃんもグレちゃんもスーツがかろうじて原型を留めているレベルにまで破壊され、全員反撃どころか逃げる事も出来ないだろう。

 最早勝機は潰えたと諦めたスバル。顔を伏せ、なのはへの詫びを口にした。




  • 最終更新:2018-11-08 18:43:12

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