0158【幕開けⅠ ~Back stab~】

 愛梨と裕子に決して動かないようにと告げ、暗殺者との間合いを詰めてゆく倶利伽羅。距離が約2メートルまで縮まった瞬間、愛梨がくしゃみをする。それを合図に両者が地を蹴り短刀と鉄鞭が激突する。金属同士が衝突する打撃音が響き、衝撃波が地を穿つ。

 敵の技はどうやら暗殺前提で会得した剣術らしく、打ち合いには慣れていない様子。機ありと見た倶利伽羅、手数で圧倒しながら足技も絡めて一気呵成に攻め立てる。だが、二人が気になって視線を向けると、いつの間にかその背後に別の暗殺者の姿が。倶利伽羅の声に気付いて振り向くが、もう間に合わない――

 乙女の柔肌に突き刺さるはずの短刀は倶利伽羅の肩に突き立てられており、その表情が苦痛に歪む。倶利伽羅に覆い被される形で庇われた愛梨と裕子は目を見開き、悲痛な声を上げる。すかさず回し蹴りで反撃するが、暗殺者に向き直った倶利伽羅の表情がまたも大きく変わる。二人に増えたと思っていた暗殺者が、二人どころか十人に増えていたからだ。

「我が名は張譲! 盛者必衰、後漢霊王の寵愛を授かりし十常侍が一人なり!」

 その名乗りを聞いて倶利伽羅は目の前のこの十人が最初に襲撃をかけて来た張譲なる英霊の宝具の能力であると確信した。つまり、相手は聖柩を巡る戦争の参加者であり戦いは避けられない。しかし、張譲は本来倒すべき相手であるはずの倶利伽羅では無くPSY-Lonの二人を最優先に狙って襲撃を掛けて来た。その意図が気にはなるが、一対十での護衛戦は流石に厄介だと思考から除き、速攻を仕掛ける。懐から鉄材を取り出し、それを地面に拳ごと叩きつけながらあるイメージを強く念じる。火花のような稲妻のような光が放たれ白煙が上がった後、倶利伽羅の拳は地面ではなく円形の鉄板の上にあり、そこについた取っ手を握り締めていた。引き上げると、筒上に空いた縦穴から大きな機関銃が姿を見せ、真下を向いていた砲身が張醸らの方に向けられる。

 倶利伽羅が咆哮と共にトリガーを握ると、銃口が火を噴くかのような高速連射によって弾丸を放つ。拳銃の数十倍の弾数が展開する弾幕に蹂躙された十の人影は瞬く間に撃ち抜かれボロボロになってゆく。だが、張醸は他九人の影に隠れて弾幕を遠ざけていた為に無傷。残弾を撃ち尽くし弾幕が途切れるまで耐え切った張醸は、雑巾のようになった九人の写し身を消し、即座に健全な状態に復元して十人に戻った。その脅威的な光景に凍りつく一行。だが、いくつかの行動予測のひとつとしてこの展開を想定していた倶利伽羅は既に次の機関銃を作り終えており、再度掃射を開始する。だが、張醸の盾になるかのように九人が集結して弾切れまでしのがれる。それでも倶利伽羅は敵の動きを抑え込む為掃射を繰り返す。

 二桁に及ぶ回数の攻防が繰り返された後、倶利伽羅は気付いた。張醸の盾になっていた写し身が九人ではなく八人に減っている事に。背後を振り向くと、無防備の愛梨の背後に立つ十常侍のひとりがたった今振り上げた短刀で斬りつけようとしている瞬間を目撃する。




  • 最終更新:2018-11-05 17:50:50

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