0131【今夜はフル回転】

 自身の美貌に誇りを持つ【蔓姫】ミュルミュイル、被弾により害われた美を悼み這うようにしてスバルに近付く。地に背を縫いつけられるように動きを封じられたスバルにそれを阻止する手は無く、接近を許されたミュルミュイルの顔が下半身に迫る。そして、突然股間の匂いを嗅がれ赤面し動揺するスバルに対し、処女である事を指摘する。

 ミュルミュイルは口から蛇のような形状の舌をぬらりと見せると、自分の顔に傷をつけた罪はお前の純潔によってしか贖えぬと不気味な笑みを見せる。処女が破瓜の際に流す血には極上の魔力が宿ると言う話をされ、ようやくこの妖魔のやろうとしている事と自分の置かれている状況に気がついたスバル。いきなり心を襲う未知の恐怖に全身が震え、泣き叫び、もがく。しかし仰向けに倒された態勢では逃れる術も無く、開脚させられ襦袢を剝ぎ取られ、薄衣一枚に隔たれた彼女の純潔目掛けミュルミュイルの舌が伸びる――!

 ・・・思わず目を伏せ来るであろう痛みに身構えるスバル。ところが、待てども待てども何も起こらない。ゆっくり瞼を開けると、そこには全身冷や汗まみれで硬直する妖魔のすくみ上がった顔が。金縛りに遭ったようにピクリとも動かず、四肢を固く縛る触手も力が抜け切っている。訳も分からずいると、横から助けに現れた燕が絡みついた触手を剥がしながらスバルを抱き寄せると、優しい口調で労いの言葉をかけ慰める。

 号泣するスバルの背をあやすように優しく叩く燕の脇には、怒りのあまり表情を失った倶利伽羅がミュルミュイルの後頭部に鉄鞭を突きつけていた。ちなみに、ミュルミュイルの顔寸前には倶利伽羅が張った鉄線が鈍色に光を放っており、もしあのまま前に出ていたら彼女の顔面は10枚切りの食パンのように斬り裂かれていただろう。

「・・・さぁ~てと、ウチの看板娘を可愛がってくれたお礼を致しましょーかね」

「そうね、鋼屋に喧嘩売った事をたーっぷり後悔してもらわないとね!」

 その後、丘が揺れるほどのミュルミュイルの絶叫と絶え間無い打撃音が――。

 「いっそ殺して」と言わしめるまで痛めつけた後、植物を操る能力で床を張り直させる。汚れに強く丈夫な素材でしっかりと補強させ、二度とここには近付かないと誓わせてから解放する。口約束で逃がしていいのかと心配する燕に「約束を違えればどうなるかを、一番よく分かってるのはコイツだよ」と、この温情が一度きりのものである事を強調。捨て台詞も吐けずに青い顔を更に蒼白にし牙を折られた妖魔は去ってゆく。

 安全が確保出来た事で地下に逃れた子供らを呼び戻すと、外はすっかり夜。流石にこれから調理は難しいわねと院長。ならば気晴らしを兼ねてと、倶利伽羅は避難していたボランティアさんを含めたその場の全員を連れて市街に向かう。席はまばらだが、常連で賑わう『路地食堂ごんぶと』。かきいれ時に鳴り響く電話に出た大将は、暫く受話器に呟いた後、突然店の客を問答無用で全員追い出してしまう。唖然とする店員そっちのけで大将が厨房を動き回る事十数分。開き戸が勢い良く開かれ、雪崩れ込む夢が丘の子供らを満面の強面スマイルで迎える大将。

 今夜は貸切、無礼講。倶利伽羅と燕は子供たちやスバルが先の出来事を忘れられるぐらいに大いに場を盛り上げ、唐突に始まるカラオケ大会と共に夜は更けてゆくのだった。




  • 最終更新:2018-11-01 19:44:22

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