0129【襲撃! 蔓姫ミュルミュイル】

 交通費節約と鍛練を兼ねひとり徒歩(と言えどそこは忍、移動速度は常人のそれを凌駕する速度)で帰路を行く燕。その途中通りかかった商店街にて別の用事を済ませ食材購入の為に立ち寄っていた倶利伽羅と合流し、荷物持ちの為に引き回される(燕曰く「フツー、逆じゃない!?」)。

 その頃、夢が丘は文字通り夢の中にいた。食堂代わりの広間に大きなマットを敷いてお昼寝の時間。スバルも久しぶりにのんびりした空気についうとうと船を漕ぐ。故に、その場にいた誰もが気づかずにいた。外から忍び寄る何者かの"魔手"に――。

 ふと思いついた燕が夢が丘に連絡を入れる。しかし百回コールしても誰も電話口に出ず、今度はスバルに持たせた携帯端末にかけるが、やはり出ない。昼寝でもしてるのかと呆れる燕に対し、倶利伽羅の表情は険しい。睨むような眼差しに思わず毒づくが、倶利伽羅は突然荷物を持ったまま全速力で走り出す。それを追いかけながら燕が説明を求めると、「スバルの端末には所有者の心音や呼吸から睡眠状態を感知し自動的に留守番電話に切り替わる機能がつけてある事」を明かし、それが機能していないと言う事は、彼女の身に何かが起こっているのだと判断。杞憂で済めば良いが、何にせよ夢が丘が危ないと言う可能性は高い。心の中でスバルに檄を送り、倶利伽羅は更にギアを上げる。

 一方、スバルは文字通り電話に出れる状況ではなかった。床は無数の穴が開き、おびただしい触手がうねうねと飛び出している。院長不在の夢が丘において、ただひとり戦闘を可能とする彼女だけがこの場にいる全員の頼みの綱。バリアジャケットに身を包み、子供らとそれを地下室へ誘導するボランティアを守りながら子供を捕らえる触手を攻撃して救出すると言う、孤独かつ熾烈な戦いを繰り広げていた。ポケットからはけたたましい端末の呼び出し音が鳴っているが、僅かな油断も許されない状況で電話に出る余裕など無い。実際、1コール目に驚いて体に起こった一瞬の硬直を突いて強烈な鞭打を受けてしまっていた。咄嗟に展開した防御魔法などまるでガラスのように叩き割る威力は、スバルでも何発も受けられそうにない。

「・・・無駄な抵抗を・・・」

 子供らの咽び泣く声に紛れて、誰かがこう呟くのを聞き逃さなかったスバルは声の方角に意識を向ける。そこには、人の姿をしてはいても人間とは似ても似つかぬ緑色の肌をした少女が、触手を編んで作られた椅子に腰掛け眼下のスバルを忌ま忌ましげに睨んでいた。

 彼女の名はミュルミュイル。和環に住み着いた中級妖魔の一体である。




  • 最終更新:2018-11-01 19:43:58

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