0125【光子力を求めて】

 聖柩大戦が始まったとて、日常までが途絶えた訳では無い。ましてや、鋼家があるとは言え夢が丘の居候である事に変わりは無い。光子力研究所は今日も留守のようで。仕方ないのでスバルに夢が丘の留守を任せ、燕が鋼家に来てから一ヶ月。数日の療養と倶利伽羅謹製の回復促進アンダーウェア、そしてスバルと続けたリハビリトレーニングの甲斐あって、燕は戦闘が可能な状態にまで回復。忍の任務『忍務』には潜入もあるらしく、意外にも燕は接客系・事務系のスキルを習得していた。この新人、予想以上である。

 そこで、倶利伽羅はこれまで自分がしていた経理などの事務仕事を彼女に任せ、中断していた工房の心臓であるエンジン改造に本腰を入れる事に。しかし既に既存のエネルギー源はあらかた試し終えた後であり、どれも何か足りないと言う結果ばかりで行き詰っている状況。今更何が出来るのかと問われるとぐうの音も出ない状態が長く続いている状況だったが、今の倶利伽羅にはアテがあった。

『光子力エネルギー』。

 スバルが練馬で出会ったロボットガールズたちのパワーの源である。高出力で完全無公害と言う、話を聞く限り現在出回っていないのがありえない超ハイスペックなシロモノである。現物をまだ見ていないのでまだ何とも言えないが、試す価値はあると考えていた倶利伽羅。実は以前からこれを入手しようと依頼の合間に交渉の準備を開始していた。

 しかし、それも準備の段階で終わっている。何故かと言うと、現在国内で唯一光子力を扱っていると言う光子力研究所に全く電話が繋がらないからだ。何度かけても毎回話し中であり、ホームページに至っては1年前から更新が止まっており、掲示板には業者の書き込みしか無いと言う燦燦たる有様。その為、倶利伽羅は仕事のスケジュールに空きが出来次第、直接研究所に出向く事を考えていた。その費用を捻出するべく、スバルと二人で商店街などに営業をかけては積極的に依頼を受け、それと並行して増え続ける事務仕事に追われる多忙な日々をずっと続けていた。

 そして現在、燕の加入によって鋼家の運営は一気に安定した。事務を専任する者が増えただけでこれまでガテン系女子&職人気質だけで無理矢理回していた杜撰かつ窮屈な業務の風通しは格段に良くなり、依頼の受託システムや備品管理、経理も一新。動線の確保が出来た二人の仕事の効率も上がった。勿論、能力・意識共に忍として優秀な部類に入る燕自身も依頼を受ける事が出来るため、スバルと倶利伽羅が動けない時に舞い込み泣く泣く断っていた急ぎの依頼の取りこぼしも減り、燕への祝儀も含めて、無事目標金額を達成したのだった。

 倶利伽羅は二人に留守を任せようと考えていたが、チームZやゲッちゃんに会いたいと懇願するスバル。更に燕を湯治の為に『光子力温泉』に連れて行ってはどうかと言う院長の提案、夢が丘をボランティアで手伝いに来てくれている地元の奥様方の厚意もあって、倶利伽羅は数日鋼家を臨時休業とし、明日の始発で練馬区・光子力町に向かう事に。昼を待たず「交渉のカードを集める」と言って倶利伽羅は単身出掛けて行き、残された燕とスバル。燕は、スバルと共に過ごすうちに彼女の雰囲気と言うか纏う空気が自分等と違っている事を感覚で察知しており、その事について率直に問う。すると、スバルは正直に自分の出自を答えた。


 自分が別の世界からやって来た時空管理局に在籍する"陸戦魔導師"である事。

 そこは魔法が科学に代わって繁栄を遂げた世界だと言う事。

 そして、今この和環で起こっている”願望を賭けて七組で殺し合う戦争”に倶利伽羅と参加している事。

 自分に願いは無いが、その願いを悪用する者に代わって勝ち残らなければならないと言う事。


 どれも突拍子も無い話だが、これまでの短いつき合いでも底無しのお人好しだとすぐに分かってしまうスバルが、嘘でもこんな話を真剣にするとは思えない。自分自身が忍と言う非日常の存在である燕にとって驚きを要するような話では無い。黙って一通り聞いた後慰めもせず、怪訝そうにするでも無く「あんまり元の世界に戻りたいってそこまで強く思ってる訳じゃないみたいだけど、どうなの?」と訊ねた。

 スバルは元の世界に戻るのも大事だけど、と前置きをした上でこう答えるのだった。

「今目の前で困っている人を見捨ててまで、目指さなくちゃいけないものじゃないから」

――「誰もいない方角から突然敵意」を向けられ、窓から外に向かって飛び道具を投げ放つ燕。しかし、そこに人影は無く空を貫いた飛び道具を回収しに出た時にも、そこに何者かがいたような痕跡は何も無かった。怪訝そうにしながら部屋に戻る燕だが、彼女の気配察知能力は正確だった。其処には確かに「何か」がいたのだ。こちらを長らく伺っていた「何か」は、地面の中に潜んでいた。狙いは”若い子供が多く集まる”夢が丘。しかし、今はまだ邪魔が多い。ならば、待とう。邪魔者がいなくなるまで。例え、草木も眠る丑三つ時まで待つ事になるとしても・・・。




  • 最終更新:2018-11-02 19:56:09

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