0050【誰が為に、己を超えて】

 一撃必殺の剛剣が乱れ舞う中、倶利伽羅は一歩下がって動きを徹底的に「見」る。太刀筋や動きの癖を解析する為に。

 百を超える打ち合いの末、見つけた決定的な「隙」。受け止めるのではなく遠心力を足す要領で剣を流し、体勢を崩す。そこに刀身目掛け"精神"を直接打つ打神鞭を渾身の力で振り下ろす。その反応から、剣士本人を攻撃するより効果的と判断、無呼吸の上下連続滅多打ちを敢行。獣のような苦悶の呻き声を上げる。

 しかし剣士は、"物理法則を無視した縦横無尽の三次元斬撃"で反撃。倶利伽羅は一瞬で総身を斬り刻まれ、ダウンは免れたが魂にまで及ぶ深い傷を負わされた全身を深い虚脱感が襲う。

 勝利を確信し魂を喰らおうと剣士が近付く目の前、倶利伽羅はやおら四股を踏む。その眼に疲れや諦めは微塵も無い。誰かの為に戦う、それこそ自分の限界を超える唯一の術である事を、倶利伽羅の魂は知っていた。

 魔剣を介し恐怖混じる怒りの声を上げ、倶利伽羅に止めを刺しに駆け出す剣士の視界の隅、あの橙色の光が突如弾け、風が吹き荒れる。

 そして天から注ぐ一条の光。その光景は、倶利伽羅光臨の刻(とき)と重なる。



  • 最終更新:2017-12-24 21:32:33

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