0002【夢が丘】

 和環の名が示す通り、湖を中心とする円状の町のシンボル・銀岳を対岸に臨む、名も無き丘。町外れに位置し、あまり人の寄りつかない静かな場所とされていた。かつて教会があり、その建物を再利用した孤児院――今風に言うならば児童養護施設「夢ヶ丘」はあった。

 朝九時の丘に降る雨は、夜明け前の降り始めに比べれば幾分穏やか。小雨降る丘の道を、年老いた淑女が黒い傘を手に一人歩いている。孤児院の屋根が見え始める頃、彼女の足が止まる。その目は、道に横たわる何かに向けられていた。

 駆け寄ると、白髪の若い男が満身創痍で地に伏せていた。呼吸と心音を確認したものの、呼び掛けに一切応じない為すぐに救助を呼ぶ。その際、電話を掛ける女性の声をかすかな意識の中で聞いていた少年だったが、その意識は再び深い闇に溶けていった。

 気付けば夢の中。猫の耳を模したような白い髪の娘が頭の上から自分を睨み下ろしていた。何か悪態をついているようだが、その声が鼓膜を震わせる事は無かった。やがて少女は癇癪を起こし何処からか黒ずんだ鉄の棒を取り出すと、躊躇なく振り下ろし――


  • 最終更新:2017-04-28 22:12:34

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード